- 1.緒言
- 鋳鉄は耐熱性、耐摩耗性に優れエンジン部品等に多く用いられている。近年、環境問題(排ガス規制)の対応とともに、
高出力化、高機能化が要求されており、各部品の要求品質も過酷になっている。耐熱性の向上は対象となる部品により異なり、
例えば排気マニホールドでは全体の強化を、シリンダーブロックでは爆発面側のみの強化が検討されている。
一方、鋳鉄の熱衝撃特性に関して、多くの報告が見られるが、黒鉛形状や基地組識について系統的に整理された報告は少ない。
そこで本研究では、シリンダーヘッドの爆発面を想定した試験片により熱衝撃特性を評価し、鋳鉄の熱衝撃特性に及ぼす
黒鉛と基地組識の影響を明確にすることを目的として実施した。
- 2.実験方法
- 実験には、熱衝撃特性に及ぼす黒鉛形状の影響を調べるため、片状黒鉛鋳鉄(FC250)、CV黒鉛鋳鉄(FCV410)、
球状黒鉛鋳鉄(FCD450)の3種類の鋳鉄を溶製した。各試験片とも焼鈍(1173K×2h→26h炉冷)と焼準(1173K×2h→空冷)を行い、
基地組識をフェライト、パーライトとし、基地組織の影響について調べた。また、フェライト基地試料にレーザ焼入れを行い、
黒鉛周辺をマルテンサイトで強化したものを比較・検討した。
これらの試料をシリコニット炉中で加熱しておいた黒鉛粒中に埋め込み、ポート穴間を有する試験面(以下、試験面)を
共析変態温度の上下2水準(1073K、973K)に昇温、保持(60s)後、氷水中の278Kまで急冷、保持(60s)し、この加熱冷却サイクルを
繰り返すことにより、熱衝撃を負荷した。試験面に発生した亀裂の評価方法は、ポート間の亀裂発生、亀裂進展、亀裂貫通の
各段階ごとに、カラーチェックによるマクロ観察、光学顕微鏡によるミクロ組織観察で行い、また、亀裂の定量化は
ポート間試験面の亀裂発生面積率の測定を行い評価した。
- 3.実験結果および考察
- フェライト基地、パーライト基地各試験片の熱衝撃試験後の顕微鏡組織を観察した結果、初期の亀裂の発生は黒鉛と
基地組織との界面周辺で多く見られ、ここが亀裂発生の起点となっていることがわかった。この界面周辺の組織は凝固末期に
生成し、不純物が濃化しやすく、脆弱であるため、この部分が亀裂発生の起点となったものと考えられる。Fig.1に
加熱温度1073Kにおける実験結果を示す。
これより、片状、CV、球状の順に亀裂貫通までに多くのサイクル数を要し、熱衝撃強度はこの順に強くなることがわかる。
これは、片状黒鉛、CV黒鉛が立体的には連鎖した黒鉛であって、亀裂の発生が黒鉛と基地との界面から始まり、亀裂が容易に
つながりやすいため、亀裂の進展が速いものといえる。すなわち、この両者の鋳鉄の熱衝撃に伴う亀裂伝播の大部分が黒鉛を
通して行われることを意味している。
一方、球状黒鉛は単体で存在しており、黒鉛間距離が長く黒鉛と基地界面で発生した亀裂はつながりにくく、このため、
亀裂伝播は、基地組織の強さに依存するものと考えられる。
フェライト基地と比べると、パーライト基地ではサイクル数の増加とともに亀裂面積率も増加する。これは、パーライト基地は
広い面積にわたって亀裂進展した結果、サイクル数が増加したためと考えられる。また、加熱中でのパーライトの分解も
サイクル数の増加に起因しているものと思われる。
亀裂発生の起点となる黒鉛と基地組織との界面を部分的に強化するため、レーザ焼入れにより黒鉛周辺の基地組織に
マルテンサイトを析出させたものとフェライト基地とを対比させた結果を、Fig.2に示す。片状黒鉛、CV黒鉛については
サイクル数、亀裂面積率について増加を示し、強化に有効であることがわかった。球状黒鉛については、亀裂面積率は増加するが
サイクル数は大きな変化がなかった。球状黒鉛の亀裂進展は前述のように基地組織に依存することが大であるから、亀裂進展は
主として基地を伝播することによって行われるため、黒鉛と基地界面を強化してもその効果は小さく、広範囲にわたり亀裂が
進展するものの、サイクル数の増加には寄与しないものといえる。